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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)1400号 判決

原告

竹島孝次

被告

原田良彦

ほか一名

主文

一  被告らは各自原告に対し、金七五一万八九八二円と、これに対する昭和四九年一二月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その一を被告らの負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(一)  被告らは各自原告に対し、金一五〇〇万円と、これに対する昭和四九年一二月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(三)  この判決は仮に執行することができる。

二  請求の趣旨に対する答弁

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

(一)  交通事故の発生

原告は次の交通事故(以下本件事故という。)によつて負傷した。

1 日時 昭和四四年二月一七日午前八時一〇分頃

2 場所 東京都練馬区高野台四丁目二一番地先交差点(以下本件交差点という。)

3 関係車両及び運転者等

(1) 普通乗用自動車(車両番号 練馬五ほ二九〇四―以下被告車という。)

運転者 被告原田良彦(以下被告良彦という。)

保有者 被告原田清蔵(以下被告清蔵という。)

(2) 自動二輪車(車両番号 練馬区な二二―二五―以下原告車という。)

運転者 原告

4 態様 通称目白通りを大泉方面から目白方面に進行、本件交差点を直進しようとした原告車と、原告車の進行方向左方から目白通りと丁字型に交差している道路を進行、本件交差点を大泉方面に右折しようとした被告車とが衝突

5 結果

(1) 傷害の部位、程度 外傷性シヨツク、顔面多発擦過創、左下腿骨開放性粉砕骨折、左大腿骨顆部粉砕骨折

(2) 治療の経過

(ア) 丸茂病院に昭和四四年二月一七日から翌四五年一月二六日までの間入院

(イ) 杉浦整形外科に昭和四五年六月四日から一〇日まで、同年一一月二六日から同年一二月一二日まで及び同四七年二月二三日から二八日までの間入院、同四五年一月三〇日から同四九年一二月七日までの間に四八一回通院

(3) 後遺症(昭和四九年一二月七日症状固定) 左膝関節伸展拘縮、左足関節尖足位拘縮及び左下肢一・五センチメートル短縮

(二)  損害及び損害額

1 治療費 一三八万一一一〇円

2 付添費 七一万四三五〇円

3 入院雑費 一八万七〇〇〇円(入院期間三七四日につき一日五〇〇円の割合)

4 休業損害 五二〇万八一五三円

原告は本件事故当時東亜調帯護謨株式会社に勤務していたが、本件事故による傷害のため本件事故のあつた昭和四四年二月一七日から欠勤を余儀なくされて同四七年一〇月一九日には右会社を退職し、その後も就労することができず、結局、症状が固定した同四九年一二月七日までの間に、本件事故によつて受傷しなければ右会社に勤務して得たであろう合計五二〇万八一五三円の収入を得ることができなかつた。

右金額は、原告と同期に右会社に入社した徳田昇の年月収から皆勤手当を差引いた金額を基準に算定し、昭和四四年三月と同四九年四月ないし一一月については月割りで、同四四年二月と同四九年一二月については日割りで算定した。

5 後遺症による逸失利益 一五三三万九三三〇円

前記後遺症により、原告が逸失した将来得べかりし利益は、左記の計算式により、一五三三万九三三〇円である。

(ア) 性別 男性

(イ) 生年月日(症状固定時の年齢) 昭和二一年八月二二日(二八歳)

(ウ) 就労可能年数 三九年

(エ) 労働能力喪失の割合 三〇パーセント

(オ) 労働能力喪失の継続期間 三九年

(カ) 年収額 三〇〇万四七〇〇円(昭和五三年度労働大臣官房統計情報部賃金構造基本統計調査報告第一巻第一表、産業計、企業規模計、学歴計、男女別全年齢平均給与額)

(キ) ライプニツツ式により中間利息を控除

(ク) 計算式

300万4700円×30%×17.01704067

6 傷害及び後遺症による慰藉料 六〇〇万円

7 損害の填補 一二八万円

右損害について、原告は自賠責保険金一二八万円を受領した。

8 弁護士費用 一〇〇万円

被告らが右1ないし6の合計二八八二万九九四三円から右7の一二八万円を控除した二七五四万九九四三円を支払わないので、原告は本件訴訟の追行を弁護士に委任し、報酬として認容金額の一割を支払うことを約した。

(三)  事故の原因―当事者の過失

本件事故は以下に述べる通り、被告良彦の過失が原因で発生した。

本件交差点は交通整理の行なわれていない交差点であり、本件事故当時、原告が通行していた道路は通称目白通りといい、都の幹線道路であつて、被告良彦が通行していた道路の幅員よりもその幅員が明らかに広い道路であつた。

本件事故当時、目白通りの原告が通行していた側の本件交差点手前に大型自動車(バス)二台が停車し、後続して何台かの普通自動車(乗用車)が停車しており、その左側には電柱があつて通行するのに妨げになつていたので、原告は、その右側中央線寄り内側を時々停車して前方の安全を確かめながら時速約一〇キロメートルの速度で進行し、本件交差点の手前で停車している前記二台目のバスの右後方で一旦停車し発進した直後、左方から本件交差点に進入してくる被告車に気付いて警音器を鳴らし急ブレーキをかけたが、徐行することなく右折しようとした被告車の前部が、殆ど停止した原告車の左側面中央付近に激突した。

被告車が通行する道路の幅員よりも原告車が通行する道路の幅員が明らかに広く、本件交差点を原告車は直進しようとしたのに対し被告車は右折しようとしたのであり、また、本件交差点の手前で前記バスが停車していて被告車からは右方の見とおしがきかなかつたのであるから、被告車は徐行しなければならず、また、原告車の進行を妨げてはならなかつたにもかかわらず(昭和四六年法律第九八号による改正前の道路交通法―以下単に道路交通法という。―第三六条第二、第三項、第三七条第一項、第四二条等)被告良彦は、本件交差点の手前で停車していた前記バスの運転手が同被告に先に進行するようにと手で合図したので、早く右折しようとする余り、交差道路の左右の安全を確かめることなく急発進して被告車を原告車に激突させ、そのため原告は道路の端まではねとばされて転倒し、その結果前記のような傷害を負つた。殆ど停車していた原告車に被告車が激突したことは、原告が原告車諸共被告車の進行方向に道路の端まではねとばされたことから明らかであり、原告はその結果傷害を負つたのであつて、電柱に激突したという事実はない。

原告が通行していた道路の本件交差点付近が追越しを禁止する場所であつたことは認めるが、原告は停車中の自動車の右側方を通行していたのであつて追越しをしようとしたことはなく、割込みをしようとしたこともない。原告は本件交差点付近において道路の左側部分を通行していたが、仮にその右側部分を通行していたとしても、停車している自動車は道路交通法第一七条第四項第三号にいう「障害」に該当するから、その通行は同条第三項に違反するものではない。

なお、前記の通り、原告車が本件交差点を直進しようとしていたときに、被告車が既に右折していたという事実はない。

(四)  結語

よつて、原告は、被告良彦に対しては民法第七〇九条、第七一〇条に基づき、同清蔵に対しては自動車損害賠償保障法第三条本文に基づき、いずれも、前記(二)8記載の二七五四万九九四三円に一〇〇万円を加えた二八五四万九九四三円の内一五〇〇万円と、これに対する前記症状固定の日の昭和四九年一二月七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

(一)  請求の原因(一)の1ないし4は認める。

同5の中、昭和四四年二月一七日に丸茂病院に入院したことは認めるが、その余は知らない。

(二)  請求の原因(二)の1ないし4は知らない。

同5の中、(ア)及び(イ)は認めるが(ウ)ないし(カ)は争う。

同6は争う。

同7及び8は認める。

(三)  請求の原因(三)に対する認否は、抗弁(一)記載の通りである。

三  抗弁

(一)  免責又は過失相殺

本件交差点は交通整理の行なわれていない交差点であり、本件事故当時、原告が通行していた道路は通称目白通りといい、被告良彦が通行していた道路の幅員よりもその幅員が明らかに広い道路であつたことは認める。

本件事故は以下に述べる通り、原告の過失が原因で発生した。

被告良彦は、本件交差点に進入するに際し、右折の合図をし一時停止をしたところ、原告がいう目白通りの本件交差点の手前で停車していたバスの運転手が同被告に先に進行するようにと手で合図したので、目白通りの左右の安全を確認し、徐行しながら本件交差点に進入、右折したところ、原告車が時速約三〇キロメートルの速度で、右バスの進行方向右側から飛び出すように本件交差点に進入してきたので、急ブレーキをかけたが間に合わず、原告車は被告車の前部に接触してその対向車線の道路の端にある電柱に激突した。

原告が通行していた道路の本件交差点付近は追越し禁止場所であり、前記バスが危険を防止するために本件交差点の手前で停車していて道路の左側部分を通行することができず、従つてその後方で停車すべきであつたにもかかわらず、原告はあえて右バスの右側方、中央線を越えて道路の右側部分を通行し、右バスを追い越しまたはその前方に割り込んで本件交差点に進入し、既に右折していた被告車にその運転する原告車を接触させた。

右の次第で、被告らが被告車の運行に関し注意を怠つたことはなく、原告の過失によつて本件事故が発生したことは明らかであり、被告車に構造上の欠陥も機能の障害もなかつたから、被告清蔵は原告に対する損害賠償責任を免れうべきであり、少くも被告らの原告に対する損害賠償の金額を定めるのに右原告の過失を斟酌すべきである。

(二)  消滅時効

原告は本件事故のあつた昭和四四年二月一七日に、本件事故による「損害及ヒ加害者」を知つたというべきであるから、原告の被告らに対する本件事故による損害賠償請求権は時効によつて消滅した。

四  抗弁に対する認否

(一)  抗弁(一)に対する認否は、請求の原因(三)記載の通りである。

(二)  原告が本件事故による「損害」を知つたのは、前記症状固定の日の昭和四九年一二月七日であるから、抗弁(二)の消滅時効の主張はその前提を欠く。

第三  証拠については、本件記録編綴の書証目録及び証人等目録記載の通りである。

理由

一  (書証の成立について)

以下に掲記の書証の中、甲第一〇号証の一と第一一号証についてはいずれも証人竹島の証言により真正に成立したと認められ、その余の書証の(原本の存在及び)成立についてはいずれも当事者間に争いがない。

二  (本件事故の発生について)

(一)  請求の原因(一)の中、5に記載の結果の点を除き、1ないし4記載の通りの本件事故が発生し原告が負傷したことは、当事者間に争いがない。

(二)  甲第一ないし第三号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故によつて、請求の原因(一)5(1)記載のような左大腿骨顆部及び左下腿骨を骨折する等の傷害を負い、同(2)記載のように丸茂病院と杉浦整形外科に四回にわたつて合計三七四日間入院し、昭和四五年一月三〇日から同四九年一二月七日までの間に四八一回杉浦整形外科に通院して治療を受けたが、同日、同(3)記載のような左膝関節伸展拘縮、左足関節尖足位拘縮、左下肢一・五センチメートル短縮という障害を後に遺して症状が固定したとされたことが認められ、以上の認定を左右するような証拠はない。

三  (損害及び損害額について)

(一)  甲第四号証、第五号証の一ないし五、第六号証の一ないし三三、第七号証の一ないし七及び原告本人尋問の結果によれば、原告は前記傷害の治療のため、治療費として一三八万一一一〇円、付添費として七一万四三五〇円を負担したことが認められ、また、前記認定のように三七四日間入院したことから雑費として一日五〇〇円合計一八万七〇〇〇円を要したと認められ、以上の認定を左右するような証拠はない。

(二)  甲第八号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故当時東亜調帯護謨株式会社に勤務していたが、前記傷害のため本件事故のあつた昭和四四年二月一七日から欠勤を余儀なくされて同四七年一〇月一九日には右会社を退職し、症状が固定した同四九年一二月七日まで就労することができなかつたこと、原告と同期に右会社に入社した徳田昇の右期間の年(月)収から皆勤手当を差引いた金額は左記の通りであることが認められ、これらを左右するような証拠はなく、これらの事実から、原告は右期間、本件事故によつて受傷しなければ右会社に勤務して得たであろう左記の合計五二〇万八一五三円の収入を得ることができなかつたと認められる(原告本人尋問の結果によれば、原告は右会社から休業補償の給付を受けていたことが認められるが、その期間も金額も明らかではなく、またこの点について被告らは何らの主張もしていないからこの点は考慮しない。)。

昭和四四年二月一七日から同月二八日まで

1万1785円=2万7500円/月×12日/28日

同年三月一日から同月三一日まで

2万7500円

同四四年四月一日から同四五年三月三一日まで

44万7600円

同四五年四月一日から同四六年三月三一日まで

49万8070円

同四六年四月一日から同四七年三月三一日まで

64万5190円

同四七年四月一日から同四八年三月三一日まで

95万0005円

同四八年四月一日から同四九年三月三一日まで

131万2650円

同四九年四月一日から同年一一月三〇日まで

127万9246円=191万8870円/年×8月/12月

同年一二月一日から同月七日まで

3万6107円=191万8870円/年×1月/12月×7日/31日

(三)  原告は前記後遺障害によつて少くもその労働能力の三〇パーセントを喪失し、それが就労可能な期間継続すると考えるべきであり、また、原告が昭和二一年八月二二日生の男性であり、前記症状固定時の年令が二八才であることは当事者間に争いがなく、右以後原告は少くも三九年間就労可能であり、本件事故によつて受傷しなければ、その間原告が主張するように平均三〇〇万四七〇〇円の年収を得たであろうと考えられる。

そうすると、前記後遺障害によつて原告が逸失した将来得べかりし利益について、年五分の割合による中間利息をライプニツツ方式によつて控除し、その症状固定時の現在価格を求めると、原告の主張する計算式により、一五三三万九三三〇円となる。

(四)  前記傷害及び後遺障害による慰藉料としては四五〇万円が相当である。

(五)  以上により、本件事故によつて原告が被つた損害額の合計は、二七三二万九九四三円である。

四  (免責―過失相殺について)

(一)  本件事故の態様は原告運転の原告車が通称目白通りを大泉方面から目白方面に進行、本件交差点を直進しようとし被告良彦運転の被告車が原告車の進行方向左方から目白通りと丁字型に交差している道路を進行、本件交差点を大泉方面に右折しようとして衝突したものであること、本件交差点は交通整理の行なわれていない交差点であり、原告が通行していた道路の幅員は被告良彦が通行していた道路の幅員よりも明らかに広かつたこと、目白通りの本件交差点付近は追越しを禁止する場所であつたことは、いずれも当事者間に争いがない。

(二)  乙第一号証及び原告と被告良彦の各尋問の結果によると、本件事故当時、目白通りの原告の進行方向左側部分の本件交差点付近はその前方、後方共自動車が連続―渋滞しており、本件交差点の手前にはバス二台が停車し、後続して何台かの乗用車が停車しているという状況であつたがその右側部分は透いており、原告は右渋滞車両の右側、道路中央付近を進行して本件交差点を直進しようとしたこと、被告良彦は本件交差点の手前で右折の合図をし一時停止をしたところ、本件交差点の手前で停車していた右バスの運転手が同被告に先に進行するようにと手で合図したので発進、本件交差点を右折しようとしたことが認められ、これらの事実を左右するような証拠はない。

(三)1  乙第一号証及び被告良彦本人尋問の結果によれば、原告は前記バスの右側方、中央線を越えて道路の右側部分を通行、本件交差点を直進しようとしたことが認められる。原告は中央線の内側、道路の左側部分を通行したと供述するが信用できない。甲第一一号証、乙第一号証及び原告と被告良彦の各尋問の結果によると、本件事故当時、本件交差点の手前にバス二台が停車していて、原告車が中央線の内側を通行するのに十分な余地のなかつたことは明らかであり、また、前記のように道路の右側部分が透いていたことを考えると、原告のいう交通方法はきわめて不自然である、からである。

2  甲第一〇号証の一、乙第一号証(の「物件破損箇所」欄と「現場見取図」)及び原告本人尋問の結果によると、被告車の左前部が原告車の左側面中央付近に衝突し、原告車と原告は被告車の進行方向、すなわち衝突地点から原告車の右後方道路端に転倒したことが認められる。被告良彦は原告車が被告車の右前部に衝突し、その左前方に転倒したと供述するが信用できない。直進している原告車が右折している被告車の右前部に衝突してその左前方に転倒するというのは不自然であるし、また、被告良彦の供述するところによると、同被告は被告車の左前方、すなわち原告車が進入してくる方向とは反対の方向の安全を確認しつつ右折しようとしていて、原告車には衝突してはじめて気付いてブレーキをかけて停止したというのであるから、被告車の左前部がその前を横切つた原告車に衝突し原告車が被告車の進行方向に転倒したとしても、なお、同被告の眼には原告車が被告車の右前部に衝突してその左前方に転倒したように映ずることは十分にありうることだから、である。

そうして、被告車の左前部が原告車の左側面中央付近に衝突し、原告車が被告車の進行方向に転倒したことからすると、原告も主張するように、殆ど停止した状態の原告車に被告車が衝突したと推定されるが、被告車が早く右折しようとする余り急発進したとは考えられない。時速一〇キロメートル以下という程度の速度で交差点に進入して衝突するまで原告車に気付かなかつたというのは、被告良彦自身が供述するところであるが、前記認定のように、被告車は本件交差点の手前で一時停止して後、発進右折しようとしたのであり、その左方の安全を確認する必要もあり、また、被告良彦に運転手が先に進行するようにと手で合図してくれたバスの前方は渋滞していて、バスのために右折を急がなければならないような状況にはなかつたからである。

なお、被告良彦は、原告車が時速四〇キロメートル位の速度で被告車に衝突したと供述するけれども、同被告自身、衝突してはじめて原告車に気付いたというのであるから、右供述はとうてい信用できない。

被告らは原告が電柱に激突したと主張するけれども、乙第一号証及び証人熊本の証言と矛盾するのみならず、被告良彦自身も原告が電柱のあたりに転倒したと供述するのみであつて、その主張を裏づけるような証拠はない。

3  以上の検討の結果を左右するような証拠はない。

(四)1  以上の検討の結果から、原告は、原告車が通行する道路の左側部分は自動車が渋滞していて進行することができなかつたのであるから、渋滞している自動車の後方に停車すべきであつて、原告車が幅員の明らかに広い道路を直進しようとしていたことから被告車に優先するとはいえないにもかかわらず、中央線を越えて道路の右側部分を通行したのであるから、本件事故の原因の多くは原告にある、というべきである。原告は、停車している自動車は道路交通法第一七条第四項第三号にいう「障害」に該当するから、原告が道路の右側部分を通行することは同条第三項に違反するものではない、と主張するが失当である。停車している自動車が「障害」に該当するか否かという議論はあり、当裁判所も該当する場合のあることを肯定するが、右の議論は、前記認定のような渋滞して交差点の手前で停車している自動車を前提にしての議論ではなく、右のような自動車が「障害」に該当しないことは明らかである、からである。

また、被告良彦は、交通整理の行なわれていない、交差道路の幅員が明らかに広い本件交差点を、交差道路の片側手前部分は自動車が渋滞しておりその反対部分は透いていて、かつ交差点の手前でバスが停車していて被告車からは右方の見とおしがきかないという状況で右折しようとする場合には、交差道路が追越し禁止になつており、また、その片側手前部分は自動車が渋滞していて通行できない状況であつたとしても、なお、透いている反対部分を通行してくる自動車のあることを予見して左方のみならず右方の安全も確認して進行すべきであつたにもかかわらず、被告良彦の供述するところによると、被告良彦は左方の安全を確認するのみで進行、衝突してはじめて右方から進行してきた原告車に気付いたというのであるから、被告らが被告車の運行に関し注意を怠つたことがないとはいえず、被告清蔵の免責の主張は失当である。

なお、被告らは既に右折していた被告車に原告車が衝突した旨主張するけれどもそれを裏付ける証拠はなく、また、原告車は前記バスを追い越しまたはその前方に割り込んだ旨主張するけれども、前記認定のように原告車は停車中の自動車の右側方を通行していたのであつて、追越しとか割込みとかをしたという事実は認められない。

以上検討したところから、本件事故の原告車側と被告車側との過失の割合は、原告車側七、被告車側三とするのが相当である。

五  (損害の填補について)

本件事故による損害について、原告が自賠責保険金一二八万円を受領したことは、当事者間に争いがない。

六  (弁護士費用について)

以上により、原告は被告らに対し、前記三(五)の二七三二万九九四三円の三割に相当する八一九万八九八二円から前記五の一二八万円を差引いた六九一万八九八二円を請求しうるところ、原告が本件訴訟の追行を弁護士に委任し、報酬として認容金額の一割を支払うことを約したことは当事者間に争いがなく、当裁判所は、本件事案の内容、審理経過、右認容額等を考慮し、原告が支払うべき右報酬の内六〇万円を被告らにおいて負担すべきものと考える。

七  (消滅時効について)

消滅時効の起算点としての「被害者カ損害ヲ知リタル時」をどの時点と解すべきかは争いのあるところではあるが、交通事故による「損害」は交通事故の発生当時に「死傷」という、「損害」の内容と範囲を確定するうえでは抽象的であつたものが時を経るに従つて具体化していくものであるから、余りに抽象的な段階を起算点にするのも、余りに具体的な段階を起算点にするのも、共に当事者の一方に酷であり、また、多くの不合理な結果を招来するので妥当ではない。

右の検討から、原告が本件事故による「損害」を知つたと言いうる程度にその具体的な内容と範囲とが明らかになつたのは、前記症状固定の日の昭和四九年一二月七日であると解すべきであるから、消滅時効の主張はその前提を欠き失当である(本件訴訟が昭和五二年二月一八日に提起されたことは、本件記録上明らかである。)。

八  (結語)

以上の次第で、原告は被告らに対し、右六記載の六九一万八九八二円に六〇万円を加えた合計七五一万八九八二円を請求しうべきであり、また、これらについて前記症状固定の日の昭和四九年一二月七日には弁済期が到来していたというべきであるから、原告の本訴請求は、右七五一万八九八二円とこれに対する昭和四九年一二月七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条本文、第九三条第一項本文を、仮執行の宣言について同法第一九六条条第一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中優)

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